自己免疫疾患
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ご自身の健康問題に関しては、専門の医療機関に相談してください。免責事項もお読みください。 |
自己免疫疾患(じこめんえきしっかん)とは、本来は細菌・ウイルスや腫瘍などの自己と異なる異物を認識し排除するための役割を持つ免疫系が、自分自身の正常な細胞や組織に対してまで過剰に反応し攻撃を加えてしまうことで症状を来す疾患の総称である。自己免疫疾患は、全身にわたり影響が及ぶ全身性自己免疫疾患と、特定の臓器だけが影響を受ける臓器特異的疾患の2種類に分けることができる。関節リウマチや全身性エリテマトーデス (SLE) に代表される膠原病は、全身性自己免疫疾患である。
20世紀初めには、パウル・エールリヒ (Paul Ehrlich) により提唱された、免疫系は自分自身を攻撃しないとする自己中毒忌避説 (Horror autotoxicus) を代表とする考え方が主流であった。しかし、その後の研究により自分の体の構成成分を抗原とする自己抗体が発見されるにつれ、自己免疫疾患の存在が明らかになっていった。現在では、自己免疫が関与している疾患や、自己免疫の関与が示唆される疾患が多数知られている。
多くの自己免疫疾患は女性に多い。理由は明らかになっていないが、ホルモンが関与しているという説がある。また、慢性的に経過し、難治性であるため、日本では公費負担の対象として定められた特定疾患に含まれている疾患も多い。
治療法は疾患により異なるが、免疫異常が疾患の原因となっていることから、多くの疾患でステロイドと免疫抑制剤が第一選択の薬剤として用いられる。
目次 |
自己抗体
自分自身の細胞や組織を抗原とする抗体のことである。全身の組織に対し非特異的に反応する抗体と、特定の臓器に対し特異的に反応する2種類に分けられる。
前者で代表的な自己抗体は、抗核抗体 (ANA) やリウマトイド因子 (RF) が挙げられ、後者では橋本病における抗サイログロブリン抗体や重症筋無力症における抗アセチルコリンレセプター抗体などが挙げられる。
疾患により検出されやすい自己抗体があり診断に用いられるが、異なる疾患で同じ自己抗体が認められることもある。また、自己抗体は必ず検出されるわけではなく、陰性であってもその疾患を否定する根拠にはならない。
- リウマトイド因子 (RF)
- リウマチ因子とも呼ばれる。変性IgGに対する自己抗体で、主にIgMに属する。関節リウマチで最も陽性となりやすい(約70~80%)。しかし、他の自己免疫疾患でも陽性となることも多く、自己免疫疾患と関係のない疾患でも陽性となることがあり、疾患特異性は低い。
- 抗核抗体 (ANA)
- 自分の細胞の核内の構成成分を抗原とする自己抗体の総称。蛍光色素を用いた蛍光抗体法を用いて検出されることが多い。蛍光抗体法での染まり方のパターンにより、辺縁型 (peripheral pattern)、均等型 (homogeneous pattern) 、斑紋型 (speckled pattern)、核小体型 (nucleolar pattern)、細胞質型 (cytoplasmic pattern)、PCNA型 (proliferating cell nuclear antigen pattern)、セントロメア型 (centromere pattern) のように分類される。抗核抗体は総称であり、多数の抗体が含まれている。例として、抗dsDNA抗体、抗RNP抗体、抗Sm抗体、抗SS-A抗体、抗SS-B抗体、抗Scl-70抗体、抗Jo-1抗体、抗PCNA抗体、抗セントロメア抗体などがあげられる。
代表疾患
(注)桃色の欄は厚生労働省特定疾患研究対象疾患、いわゆる難病であり公費負担の対象となる。
臓器特異性自己免疫疾患
罹患臓器 | 疾患 | 標的臓器・組織 | 自己抗体 | 備考 |
---|---|---|---|---|
神経・筋 | ギラン・バレー症候群 | ガングリオシド | 抗ガングリオシド抗体 | カンピロバクターなど細菌やウイルスの先行感染が関与 |
重症筋無力症 | アセチルコリンレセプター | 抗アセチルコリンレセプター抗体 | ||
消化器 | 慢性萎縮性胃炎 | 胃壁細胞 | 抗壁細胞抗体 | 巨赤芽球性貧血に合併 |
自己免疫性肝炎 | 肝実質細胞 | 抗核抗体 抗平滑筋抗体 抗肝腎ミクロソーム抗体 等 | ||
原発性胆汁性肝硬変 | 肝小葉間胆管 | 抗ミトコンドリア抗体 | ||
原発性硬化性胆管炎 | 胆管 | IgG4関連症候群 | ||
自己免疫性膵炎 | 膵実質 | IgG4関連症候群 | ||
循環器 | 大動脈炎症候群 | 大動脈 | 抗大動脈抗体 | |
肺 | グッドパスチャー症候群 | 肺胞・腎 | 抗基底膜抗体 | 急速進行性糸球体腎炎を合併 |
腎臓 | 急速進行性糸球体腎炎 | 腎糸球体 | 抗基底膜抗体 抗MPO-ANCA抗体 抗DNA抗体 抗P-ANCA抗体 等 | |
血液 | 巨赤芽球性貧血 | 赤芽球系 | 抗内因子抗体 | 慢性萎縮性胃炎を合併 |
自己免疫性溶血性貧血 | 赤血球 | 抗赤血球抗体 | ||
自己免疫性好中球減少症 | 好中球 | 抗好中球抗体 | ||
特発性血小板減少性紫斑病 | 血小板 | 抗血小板抗体 | ||
内分泌・代謝 | バセドウ病 | 甲状腺ホルモンレセプター | 抗甲状腺ホルモンレセプター抗体 | |
橋本病 | 甲状腺ミクロソーム サイログロブリン | 抗甲状腺ミクロソーム抗体 抗サイログロブリン抗体 | ||
原発性甲状腺機能低下症 | 甲状腺 | 抗ペルオキシダーゼ抗体 抗甲状腺刺激抗体 等 | ||
特発性アジソン病 | 副腎 | 抗副腎抗体 | ||
インスリン依存性糖尿病 | ランゲルハンス島 | 抗ランゲルハンス島抗体 | ||
皮膚 | 慢性円板状エリテマトーデス | 抗核抗体 | 播種型で高い力価 | |
限局性強皮症 | 抗1本鎖DNA抗体 | 斑状強皮症で高い力価 | ||
天疱瘡 | 表皮 | IgG抗表皮細胞抗体 | ||
類天疱瘡 | 表皮基底膜 | IgG抗表皮基底膜部抗体 | ||
妊娠性疱疹 | 表皮基底膜 | IgG抗表皮基底膜部抗体 | ||
線状IgA水疱性皮膚症 | 表皮基底膜 | IgA抗表皮基底膜部抗体 | ||
後天性表皮水疱症 | 表皮基底膜 | IgG抗表皮基底膜部抗体 | ||
円形脱毛症 | 毛母細胞 | 毛包周囲へのCD4陽性リンパ球浸潤 | 全頭型・悪性型で顕著 | |
尋常性白斑 サットン後天性遠心性白斑 | メラノサイト | 抗メラノサイト抗体 | 汎発型(A型)に顕著 | |
眼 | 原田病 | ブドウ膜・皮膚・神経 | 病変部のリンパ球浸潤 | |
自己免疫性視神経症 | 視神経 | 抗核抗体 抗カルジオリピン抗体 等 | 各種疾患に合併 | |
男性生殖器 | 特発性無精子症 | 精巣 | 抗精子抗体 | |
産婦人科 | 習慣性流産 | 抗β2-GPI抗体 抗カルジオリピン抗体 等 |
全身性自己免疫疾患
疾患 | 標的臓器・組織 | 自己抗体 | 備考 |
---|---|---|---|
関節リウマチ | 関節滑膜 | リウマトイド因子,抗CCP抗体 | 膠原病 |
全身性エリテマトーデス | 多臓器 | 抗二本鎖DNA抗体 等 | 膠原病 |
抗リン脂質抗体症候群 | 動脈・静脈・子宮 等 | 抗リン脂質抗体 | |
多発性筋炎 皮膚筋炎 | 皮膚・筋・肺 等 | 抗Jo-1抗体 | 膠原病 |
全身性皮膚硬化症 | 皮膚・肺・腎臓 等 | 抗トポイソメラーゼⅠ抗体 等 | 膠原病 |
シェーグレン症候群 | 涙腺・唾液腺・多臓器 | 抗Ro/SS-A抗体 等 | |
結節性多発動脈炎 顕微鏡的多発動脈炎 アレルギー性肉芽腫性血管炎 ウェゲナー肉芽腫症 | 中・小動脈 | 抗好中球細胞質抗体 | |
混合性結合組織病 | 多臓器 | 抗U1-RNP抗体 |
検査
- クームス試験(Coombs試験)
「クームス試験」も参照
- 血液と抗ヒト免疫グロブリン抗体を反応させて血液凝集反応の有無を見る検査。II型アレルギーによる。
- 直接クームス試験
- 患者の赤血球と抗ヒト免疫グロブリン抗体を直接反応させるクームス試験。
- 鑑別
- 直接クームス試験が陽性の場合には自己免疫性溶血性貧血、等が考えられる。
- 間接クームス試験
- 患者の血清と抗ヒト免疫グロブリン抗体を、間に正常なヒトの赤血球を介して反応させるクームス試験。
関連項目